500字で読む日本文学〜『山月記』/中島敦

― プライドに翻弄された男の末路。
『山月記』は、漢文調の格調高い文体とドラマチックな展開で知られる、中島敦の代表作です。主人公・李徴(りちょう)は詩人になる夢を抱いて官職を捨てたものの、うまくいかずに世間から逃れ、やがて消息を絶ちます。物語は、旧友の袁傪(えんさん)が山中で李徴と再会するところから始まります。彼はなんと、虎の姿となっていました。
人間でありながら虎になった李徴の語りから浮かび上がるのは、プライドと恐れ、孤独、後悔といった人間の複雑な心。「臆病な自尊心と、尊大な羞恥心」――この印象的な言葉は、多くの読者の心に残ります。
李徴は、才能を信じたがゆえに破れ、虎となってなお、自らの詩を理解してもらいたいと願う。中島敦は、人間の心の中に潜む獣性や、理想と現実のギャップを、わずか十数ページの中で見事に描き出しました。
読むたびに「自分の中にも李徴がいるのでは」と思わされるこの作品は、思春期の葛藤や、自己肯定感に揺れる人にも強く響く名作です。
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